米国と多くの国々との間では、租税条約(U.S. Tax Treaty)なるのもが多く存在します。これは当然のことながら、国ごとに違う内容となっています。また、米国との国交が盛んでない国には、この条約は存在しない場合があります。
これらの租税条約によって、米国への一時的な滞在者は 、米国において大きな非課税扱いの恩恵を受ける可能性が考えられます。従って、これらの条約に関しては、各自で適用の有無を必ず確認する必要があります。 勤め先の給与管理部門が、これらの条約に関して、正しい手続きをしてくれるとは限らないのが現状です。さらに、条約による非課税扱いは、自動的に得られるものではないため、たとえ源泉徴収されていなくとも 、条約によって非課税扱いである旨申告する義務があります。
(重要)日米租税条約第20条は, 2019年8月30日に発行された「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約を改正する議定書」によって廃止されました。
租税条約の適用を考える場合の大きな注意事項として、どの国の条約が適用されるのかという問題があります。なぜこの説明が必要かというと、租税条約 (Treaty)は渡米直前に税法上居住者(Resident)であった国のものが適用されるルールだからです。国籍ではないところが注意すべき点です。日本から直接渡米する日本の 居住者(Resident)であった方は、当然日米租税条約が適用されますが、米国入国直前の居住国が、日本以外である場合も十分考えられます。このような場合は、 渡米直前の居住国の租税条約が適用されます。
(例)日本国籍であるAさんは、2015からカナダに留学していました。2017年の初めから、米国内の研究機関で働くことになりました。この場合、2017年度の申告書でAさんの適用される租税条約(Treaty)はカナダのものになります。
以下の国の税法上の居住者(Resident)の後で米国に入国し、その国の租税条約が適用される場合は注意が必要です。
・Germany ・India ・Netherlands ・Thailand ・The United Kingdom
これらの国の条約が適用されるTeacher 及びResearcher で、Compensation for Teaching or Research が非課税扱いを受ける場合(後で説明するTeacher, Researcher の租税条約)、もし、条約で定められた期間を延長してしまうと、すべての滞在期間において免税の恩恵が受けられなくなり、過去に遡って修正申告をして税金を納めることになります。
(例)日本国籍であるBさんは、イギリスに2年間留学した後、2006年の初めに、米国の研究機関でResearcher として働き始めました。Bさんの所得はその研究から得られており、イギリスの租税条約によって2年間非課税扱いになってました。当初は米国滞在は2年を予定してましたが、研究終了の目処がつかずに2008年の12月までの3年間滞在しました。この場合、3年目は条約による 非課税扱いが使えないばかりでなく、2006年、2007年も租税条約(Treaty)が使えなくなり、修正申告をして2006年、2007年の税金の支払い義務が発生してしまいます。
その他のTreaty 関連は、IRS Publication 901 U.S. Tax Treaties (PDFファイル)を参照ください。
租税条約(U.S. Tax Treaty)の州税に関する扱いは、各州ごとによって異なります。詳しくは、州税に関する注意事項 を参照ください。 また、条約の適用の有無に関しては、必ずご自身で、IRS Publication 901 U.S. Tax Treaties (PDFファイル)や各州のInstruction を参照ください。
旧日米租税条約
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新日米租税条約(2004年7月1日より適用)
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Treaty Article #19
Teacher & Researcher
その活動からの所得が入国日より2年間非課税。
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Treaty Article #20 (2019年に廃止)
Teacher & Researcher
その活動からの所得が入国日より2年間非課税。
ただし、継続して日本の税法上Residentである必要あり。
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Treaty Article #20(1)
Scholarship or Fellowship Grant
入国日より5年間非課税。
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該当する条文なし。 |
Treaty Article #20(1)
Compensation during Training
年間2000ドルを上限として入国日より5年間非課税など。
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該当する条文なし。 |
Treaty Article #20(1)
Gift from Abroad for maintenance, education, study, research, or training.
入国日より5年間非課税。 |
Treaty Article #19
Student or Trainee: Remittances or Allowances from Abroad
期間を問わず非課税。ただし、Business Apprentice の場合は、入国日より1年間の制限あり。 |
補足として、Scholarship, Fellowship 及びGrant の税法上の扱いを説明します。Scholarship, Fellowship 及びGrant が学位取得目的であり、それらが直接的な費用(授業料、教科書代など)に使われた場合は、米国税法によって、租税条約を適用するまでもなく、非課税扱いとなります。ただし、部屋代、食費は直接的な費用に含まれません。 これに該当しないScholarship, Fellowship 及びGrant は、租税条約によって非課税とされない限り課税対象となります。
多くの研究などで留学されている方が適用される条約による非課税には、本ページの説明のとおり、大きく2種類があります。
1.Grant などの扱い → 旧Treaty Article 20(1) (NIH, NASA などの政府機関に勤める多くのResearcher の方々が適用)
2.Compensation for Services → 旧Treaty Article 19(新Treaty Article 20)に該当する大学などの教育機関で、Teacher, Researcher として活動する場合は、その研究活動からの報酬(役務の対価)が、入国日より2年間非課税となります。(大学などの多くのResearcher の方々が適用を受けています)
上記の違いは受け取る所得が役務の対価であるか否かです。米国税法では、役務の対価となる報酬は、まず課税と考えて間違いなく、これの例外の一つが2の場合 (旧Treaty Article 19による非課税)です。両者とも、もらう側としては同じ給与のように見えますが、1の場合は研究活動に対する補助金のような扱い、2の場合は役務の対価扱いです。 ただし、2004年3月31日以降渡米されている方は、新日米租税条約により、租税条約による非課税対象の方は減少したと思われます。
(注意) J-1ビザなどで米国内の企業にてインターンをしているTrainee に該当し、そこから給与を受け取っている場合は、上記とは異なり新租税条約19条により、Trainee として滞在を始めた日から1年を越えない期間、日本から支払われる給付に関して米国では非課税扱いとなります。
以上から、必ずしもJ-1ビザ=2年間非課税とはならないので、注意が必要です。