米国税法の計算方法は言うまでもなく複雑にできています。多くの皆様がこれには苦労されていることと思います。ここでは、個別の控除の細かい説明をせずに、全体としてどうなっているのかを説明します。実際には 、個別の項目の詳細な説明よりも、どこでどのような控除が適用されるのかを理解する方が、皆様にとって有益と思います。実は「どこで」が重要になります。
フォーム1040や1040NR上のどこで控除などをするか、これを理解することがとても重要になります。これを分かりやすくするために、たくさんある控除項目を以下の4つのカテゴリーに分けます。
・控除群1
調整後総所得(AGI : Adjusted Gross Income)の上で控除することから、Above the Line Deduction と呼ばれます。この項目に含まれる控除は、所得から引き算することで、あたかも所得がなかったかのように扱われます。 ここで引ける代表格は引越し費用(Moving Expense)、教育ローンの支払利息などがあります。
詳しくは、控除について (控除群1:Above the Line Deduction) を参照ください。
・控除群2
控除群2は、税法上の非居住者(Non Resident)と居住者(Resident)で扱いが異なってきますので注意が必要です。
米国税法上居住者(Resident)の場合
控除群2は、AGIから差し引く本当の意味での控除項目になります。Standard Deduction (定額控除)とItemized Deduction (項目別控除)の2つの控除の仕方があって、どちらか大きいほうを控除できます。Itemized Deduction は様々な項目から成り立っている一方、Standard Deduction はFiling Status によって一定額が決められています。つまり、何もしなくてもStandard Deduction を使うことで一定額の控除が、税法上居住者の方には利用できます。
Standard Deduction(2018年)
Single |
12,000 ドル |
Married Filing Jointly |
24,000 ドル |
Qualified Widow (er) With Dependent Child |
24,000 ドル |
Head of House Hold |
18,000 ドル |
Married Filing Separately |
12,000 ドル |
Standard Deduction(2019年)
Single |
12,200 ドル |
Married Filing Jointly |
24,400 ドル |
Qualified Widow (er) With Dependent Child |
24,400 ドル |
Head of House Hold |
18,350 ドル |
Married Filing Separately |
12,200 ドル |
Standard Deduction(2020年)
Single |
12,400 ドル |
Married Filing Jointly |
24,800 ドル |
Qualified Widow (er) With Dependent Child |
24,800 ドル |
Head of House Hold |
18,650 ドル |
Married Filing Separately |
12,400 ドル |
寄付金や医療費などは、Itemized Deduction (項目別控除)に属します。寄付金や医療費は税金の控除対象とよく言われますが、Itemized Deduction の合計額がStandard Deduction の額を超えない限り、控除に使うことは意味がないことになってしまいます。具体例を以下に示します。
(例)Aさんは2020 年に医療費の支払いが 20,000 ドル、州所得税の支払いが 7,000 ドル、通っている教会への寄付金額が 2,000 ドルだったとします。また、Aさんの調整後総所得(AGI: Adjusted Gross Income)が100,000 ドルであり、夫婦合算申告(Joint Return)をすると仮定します。

上記のAさんの例では医療費の 20,000ドル、州税 7,000ドル、及び寄付金 2,000ドルは結果的に控除に使えません。理由はStandard Deduction で 24,800ドルの控除をした方が、税額を低くできるからです。
従ってItemized Deduction に入る項目は常にStandard Deduction の金額といつも比較して考える必要があります。
米国税法上非居住者(Non Resident)の場合
控除群2において、税法上非居住者(Non Resident)として扱われると、Standard Deduction を使うことができなくなり、Itemized Deduction のみとなります。また、Itemized Deduction においても、特定の利子費用と医療費の控除ができなくなります。
細かいですが、India との租税条約(U.S. Tax Treaty)を使う場合は、非居住者(Non Resident)であっても特別にStandard Deduction が使える場合があります。
米国税法上居住者(Resident)と非居住者(Non Resident)の控除群2における違いのまとめ

詳しくは、控除について(控除群2:Itemized/Standard Deduction) を参照ください。
・人的控除・扶養者控除(Exemption)2018 年より廃止されました。
人的控除・扶養者控除(Exemption)とは、自分+配偶者+扶養者の人数×一定額が控除の対象になります。細かいルールはやはり 税法上居住者(Resident)と非居住者(Non Resident)で異なってきます。ここでもExemption という単語が出てきましたが、この場合は頭数で控除できる控除のことを指しています。
簡単化すると… (自分自身+配偶者+扶養者)× 4,050 ドル (2017 年)
(注意)2018年の申告より、人的控除・扶養者控除(Exemption)は廃止となります。
以下に詳細のルールを示します。
米国税法上居住者(Resident)の場合
・本人・・・自分自身が他の人の扶養者(Dependent)として申告されている場合は控除できません。
・配偶者控除・・・年度末に合法的に結婚していれば無条件で控除できます。年度末で離婚していた場合は控除できません。細かいですが、夫婦個別申告(Married Filing Separately)の場合は、配偶者に所得がなく、かつ他の人の扶養者(Dependent)でない場合のみ配偶者控除を受けられます。なお、配偶者(Spouse)は扶養者(Dependent)としては扱われません。Spouse とDependent は 、税法上分けて考えます。
・扶養者控除(Dependency Exemption)・・・年の途中で死亡または誕生があった場合でも、扶養者控除の対象になります。
(2004年以前のルール)
扶養者(Dependent)に該当するためには以下の5つの条件を満たす必要があります。 また、これを5テストと呼びました。
1.夫婦合算申告を提出していない。
2.1年を通じて住居を共にするか三親等以内の家族であること。
3.米国、カナダ、メキシコの 居住者(Resident)であること。
4.扶養者のGross Income がExemption の額(2004年は3,100 ドル)未満であること。
(ただし、19歳未満の子供と24歳未満の学生である子供には適用されません。)
5.扶養者の50%超の年間生活費を負担していること。
(2005年以降のルール)
扶養者(Dependent)に該当するためには、まず以下の1.A Qualifying Child または、2.A Qualifying Relative のどちらかに該当している必要があります。
1.A Qualifying Child
A Qualifying Child になるためには、以下の4つのテストを満たす必要があります。
(1) 納税者の子供、納税者の子供の子孫、納税者の兄弟、納税者の兄弟の子孫。
(納税者より若いこと)
(2) 課税年度末において19歳未満または、24歳未満の学生。
(3) 課税年度において、半年超主たる住居(Principal Place of Abode)を共にしている。
(年の途中で誕生、死亡があった場合は例外として扱う)
(4) 課税年度において、A Qualifying Child となるべき者が、自身の生活費の半分を超えて負担していないこと。
2.A Qualifying Relative
A Qualifying Relative になるためには、以下の4つのテストを満たす必要があります。
(1) 通年、世帯(Taxpayer's Household)の一員として主たる住居(Principal Place of Abode)を共にしている者または、納税者の子供、子供の子孫、兄弟、両親、その他祖先、姪、甥、叔母、叔父、義理の子供、義理の両親、義理の兄弟に該当する者。
(2) A Qualifying Relative になるべき者のGross Income が、Exemption の額(2016年は4,050ドル)以上でないこと。
(3) 納税者が、A Qualifying Relative になるべき者に対して、生活費の半分超を負担していること。
(4) A Qualifying Child に該当しないこと。
さらに、上記の1.A Qualifying Child または、2.A Qualifying Relative に該当している場合で、以下の3つのテストを満たした場合に、税法上扶養者(Dependent)となり控除が認められます。
1.他の納税者の申告書で扶養者(Dependent)扱いされていない。
2.夫婦合算申告を提出していない。
3.米国、カナダ、メキシコの居住者(Resident)であること。(特定の養子には例外あり)
これらの詳細は、IRS Publication 501 を参照下さい。
税法上非居住者(Non Resident)の場合
税法上非居住者(Non Resident)として扱われる場合は、日本、韓国、カナダ、メキシコの税法上居住者(Resident)のみ、控除が認められています。
・配偶者控除(Spouse)・・・配偶者に所得がない場合のみ控除可能
(ただし、日本と韓国の居住者(Resident)は、*対象年度にどこかで一緒に暮らしていることが条件になります。つまり一年中別居していた場合は控除が取れません。)
*対象年度・・・2004年度のTax Returnの場合は2004年。
配偶者であることは年の終わり、暦年の場合は12月31日で結婚しているかで判断します。
※ 米国税法上非居住者(Non Resident)扱いの方で、適応される租税条約が日本の方(渡米する直前に日本の税法上居住者(Resident)であった方または、継続して日本の税法上居住者(Resident)である方)に対する配偶者控除は2005年の申告より適用がなくなりました。
・扶養者控除(Dependents)・・・カナダ、メキシコの居住者(Resident)の場合は、米国税法上 居住者(Resident)の扶養者と同じルールが適用されます。日本と韓国の居住者(Resident)の場合は、対象年度のどこかで一緒に暮らしている子供である必要があります。子供を強調している理由は、自分の親や親戚などをたとえ経済的に扶養していても控除は認められないという意味です。
(注意)配偶者及び扶養者控除を取るためには、配偶者及び扶養者は、ソーシャルセキュリティナンバーもしくは、ITIN (Individual Tax Identification Number)を持っている必要があります。ITINの取得に関しては、ITIN (Individual Tax Identification Number)の取得 を参照ください。
また、控除について (人的控除・扶養者控除) も参照ください。
※ 米国税法上非居住者(Non Resident)扱いの方で、適応される租税条約が日本の方(渡米する直前に日本の税法上 居住者(Resident)であった方または、継続して日本の税法上居住者(Resident)である方)に対する扶養者控除は2005年の申告より適用がなくなりました。
・控除群3
控除群3は通常○○Credit と呼ばれているものです。非常に多くのCredit が存在します。特徴は税額を直接減らす働きをします。一般に、普通の控除と違うのは、税率 が掛け算された後で 、税金の額を減らす働きをします。例えば、ある人が100ドルCreditが認められるということは、100ドル税金が安くなることを意味します。よく使うものとしては、Foreign Tax Credit, Credit for Child and Dependent Care Expenses, Education Credit, Child Tax Credit, Earned Income Credit などがあります。ユニークなものには、電気自動車に関するCredit などかなりの数のCredit が存在します。
主なCredit の説明は、控除について (控除群3:Credit) を参照ください。
以下に簡単にForm1040や1040NRなどでの計算の方法を書きます。このとおりの順番で記入するようにできています。またそれぞれのカテゴリーごとに分けられています。このページでは簡略化のため控除群と呼んでいます。

(参考)上記の適用される税率については、税率 を参照ください。また、AMTに関しては、AMT (Alternative Minimum Tax)とは? を参照ください。